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1991.春 その4

2,300m後ろ向きに走っただろうか、、、大きな十字路にバックのまま曲がりパレスから直接見えないところでようやくジープは止まった。二人は息を切らせてぜーぜー肩でものを言っていた。涙ぐんだ目で俺たち二人は肩を抱き合った。冷静になると俺たちは恐る恐る外へ出て話し合わせた訳でもないのにジープの前を確認しに行った。右のバンパーに一発、左のライトの上あたりに一発、ボンネットには玉がこすったのだろう後が一本、合計三発当たっていた。俺たちはなぜだかわからないが笑って握手をした。
ジープが致命傷を受けずにいたからなのか?、、、
玉が当たったのに生還できた事へのお祝いか?、、、
緊張から解けての安堵感からなのか?、、、
なぜかわからないが俺たちは誇らしげだった。
運転手は俺の握っていたフラッグを取り上げてジープの前のポールに結びつけた。
(お前ねー、はじめからつけとけよ!こんな時!)それでどうなるの、これから、、、
とにかくホテルに行かなくちゃ!!すると、運転手は言った。
(脇の歩道のところをゆっくり行けば大丈夫だ!)
(えっ!またさっきの同じ道を戻ろうと言うの?俺はやだよ!絶対!!馬鹿かお前は、、、
今度はバズーカ砲かもっとでかいやつでやられたらどうするの?!標的にされるのはごめんだ!!!)すると今度はゆっくりとわかりやすい英語で説明し始めた。
(フラッグがつけてあるから大丈夫、ほんのちょっと走ったらすぐ右に入ってプールサイドのフェンスを突き破ってプールサイドから入るから、、、)すげーえ!とにかくトライしよう!俺はフェンスがどんなものなのか?もし、そのフェンスが丈夫なものでぶち破れなくてジープが立ち往生する心配はしていたがその事も面白いと思っていた。俺たちはすぐジープに乗り込み恐る恐る走り出した。さっき逃げてきたパレスの正面、メインロードを曲がろうとした時、運転手は几帳面にもウインカーを出した。いつもの癖だろう。カチカチカチ!周りの静かな緊迫した空気の中にそのウインカーの音は俺にはものすごく罪深く、大きく鳴り響いているように感じられた。
(馬鹿やろう!こんな時にウインカーかよ!ポリスでも飛んでくると言うのか!!!)
思いっきり俺はどなった。そっちの方がよっぽど大きかったに違いない、、、
あわててウインカーのスイッチを戻して、メインロードを旋回して右の芝生に乗り上げた。
フェンスとフェンスの奥には確かにプールが見えた。これか!これならこのジープで突き破れる。運転手はアクセルをいきなり吹かしてフェンスを破りプールサイドを走り抜けた。
普通なら大きな賠償金を払わされるところだが今は大丈夫。俺たちはホテルの裏を回って正面玄関にジープを止めた。もうここからは直接パレスは見えない。
ホテルの正面、回転扉を回してロビーに入るとそこには家族連れの観光客やビジネスマンはいるわけもなく、高く積まれた放送機材の山やたくさんの束ねられたケーブルが所狭しと置いてあった。もう、普通の状態でない事はすぐにわかった。そりゃそうだ!外は緊迫した状態が続き俺たちだってさっき危うく難を逃れて来たのだから、、、
彼は俺に(パスポート)と言うと渡したパスポートを持ってフロントで簡単にチェックインを済ませルームキーを持ってきてくれた。俺はそのまま一つのスーツケースを持って彼とエレベーターで部屋へ向かった。エレベーターの中で俺は彼に(もう少しいっしょにいた方がいいよ。今帰るには危険すぎる!)と言うと彼は当たり前だと言わんばかりにうなずいた。機嫌がいいみたいだ、、、
12階だっただろうか、エレベーターのドアが開き彼が先頭に俺たちは降りてじゅうたんの廊下に出た。静まりかえっているはずのホテルの廊下、、、そこは別世界だった、、、
たくさんの行きかうジャーナリストたち、報道カメラマン、テレビ関係者、、、何本ものケーブルがあっけぱなしの客室ドアを行きかう、、、廊下の地べたに座り込みなにやらワープロを打ってるやつもいる。そこはもう、ホテルではない!報道ステーション、、、
そんな廊下を足元を気をつけながら一番奥の俺の部屋へと進んだ。
ドアを開けると俺の部屋はやはりヒルトンホテル、、、大きな窓にきれいなベッドやデスク。
景色はすこぶるいい。それにパレスとは反対側にある部屋だった。
よかった、と思った瞬間、パレス側ならとくとこれからあの重戦車たちがどうするのか様子がよくわかるのに、と少しがっかりした。
冷蔵庫を開けるとそこにはミネラルウォーター、ジュースにビール、ミニチュアリキュールがぎっしり入っていた。とりあえずビールを飲みたかったので彼にも(ビール飲む?)と聞くとYes!しゃきっと答えた。二人で今までの労をねぎらうつもりで乾杯して一気に飲み干した。二人で飲んだあの味は一生忘れない、、、
飲み干してすぐさま彼が、シャワーを浴びせてくれないか?と言ってきた。俺は少し機嫌を悪くして答えをちゅうちょした。こっちのやつらの行儀悪いシャワーの使い方はよく知っていたから、、、シャワーカーテンを閉めずにシャワーしてトイレも水びたしにするし、使った石鹸も元の位置に戻さなければ石鹸の入っていた箱も水びたしにして平気でその辺に捨ててしまう、、、それが女になら一つ一つ説明して教えてあげられるが男にはいささか抵抗があった。まあ、いいや、今日は、、、後でバスタオル大目にもらって掃除しよう!
俺はいやいやOKした。
彼は10分ほどでシャワーを浴びバスルームから出てくると(Thank you!Very comfortable!!)よかった、よかった、喜んでくれてよかったと思いながらバスルームをのぞいてみると、そんな気持ちなど俺は一発でぶっ飛んだ!
それは思った以上の光景だったから、、、
そんな事でやつともめる間もなくドアのノックがなった。誰だろう?(お前のボスじゃないの?)俺は日本大使館の五十嵐さんだと思った。さっきの銃声に心配して来てくれたのかと、、、ドアを開けるとめがねをかけた確かに日本人だったが五十嵐さんではなかった。
(こんにちは!尾茂さんですか?僕はたった今ナイロビから着きまして、日本人取材班は僕一人と思っていたのですが、フロントでもう一人の日本人が先にチェックインしていると名前を教えてくれました。朝日新聞ナイロビ支局の渡辺です。尾茂さんはどちらの方?)
また、俺はここでも恥をかかなくてはいけないのかと思うと説明するの面倒に思えたが嘘もつけず簡単に、本当はザイールにダイヤを買い付けに行く途中、空港でロックされクーデターに巻き込まれた事を告げると渡辺さんは少し懸念した表情をしたがすぐ普通の顔で
(僕は尾茂さんの向かいの部屋にいますから何かあったら言って下さい。)と言って名刺をくれた。
俺はまたまた挫折感と自分の馬鹿さかげんに忘れかけていたあの30万ドルを思い出し、
バスルームの件でもあいつには文句も言えず、、、しくしく、心で泣いていた、、、
あっ、ラッキー!パレスでドンパチ始まったら渡辺さんの部屋に見に行こう!
渡辺さんの部屋はパレス側で一番の特等席だった、、、
しかし渡辺さん、ナイロビから今到着したって言っていたけどどうやって来たのだろう?
空港今でも閉鎖されて飛行機なんて飛んでないはずなのに、、、

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