記事一覧

1991.春 その9

もうどの位眠っていただろう、、、あれから思いふけったまま、ベッドに横たわりそのまま
寝入ってしまった。アデイスは標高2600m、少し空気が薄いためすぐ眠くなりやすい、、、
初めて訪れた人なら軽い高山病にかかり頭が痛くなる事もあるだろう、、、
俺はいつもボコタにいた。ボコタはそれより高い標高2800m、しかも赤道直下の町、一年中気候も季節もかわらない。初めてボコタに着いた時は俺も一週間高山病にうなされ、
頭が張り裂けそうだった事を思い出す。。。

時計を見ると3時近くになっていた。(アッそうだ!今日渡辺さんの部屋で3時すぎニュースステーションの生録だったっけ、、、)いそいそと身なりを直し、寝癖のついた髪に洗面台で水をつけ、そそくさと渡辺さんの部屋のドアをノックした。すると渡辺さんは機嫌悪そうに出てきた。(今収録の準備してるから早く入って!、、、)俺はすみませんと言わんばかりに低姿勢で部屋へと入った。ベッドの端に腰掛けた俺は一言も口を聞く事はしなかった。
(仕事の邪魔だから悪いけど出て行ってくれないか?、、、)と言われるのがいやだったから、、、それに攻撃が始まればこんなベストポジションな観客席は他にはないからだ。
3時を少し回ったあたりでだったか、、、部屋の電話がなった。わかっていたのか渡辺さんは一回の呼び出し音で受話器を取り話し始めた。まだ本番ではないらしい、、、テレビ局のスタッフのようだ。(はい、、、はい、、、はい、、、)簡単に打ち合わせを済ませ、受話器はそのままにしていた。
受話器をもったまま5分位だろうか、渡辺さんはテープレコーダーの録音スイッチに指をかけONにした。いよいよ生録だ!(アデイスアベバにいる渡辺さん、渡辺さん!)シーンと静まり返っているホテルの部屋に受話器から漏れた声が聞こえてきた。(おっ、久米宏だ!)渡辺さんは開いた黒い手帳にある原稿を見ながら淡々と今のアデイスの状況を話し始め、3、4分位だったか、受話器を置き、初めての生録はあっけなく終わった。
それまでの緊迫感がとけて俺は早速、きりだした。(お疲れ様です!攻撃始まったらまた、ニュースステーションの生録やるんですよねー?)(はい、、、たぶんまた明日、、、)
(いよいよ、明日から始まりますね、ドンパチと、、、それではまた明日3時から、、、お疲れ様です!)スタッフでもないのにいい気になってる俺、、、
アデイスと日本の時差は7時間。午後3時は日本では午後10時、、、
ニュースステーションの始まる時間だった。
部屋を出た俺は夕食にはまだ早いのでホテルを探索する事にした。一階のロビーにまず行き、開いてないショップの前を歩きプールサイドに行き着いた。プールの水はきれいだ。
プールサイドには俺たちが走り回ったタイヤの跡が、、、そしてその向こうにはジープでなぎ倒した植木と壊れたフェンス、、、(そうそう、俺たちは必死でここをジープで逃げて来たんだっけ、、、)つい最近の事があれから随分たっている気がしていた。だれもいないプールサイドを散歩しているとホテル側から一人の若い白人にしては小柄な奴が近寄ってきた。
(ハイ!日本人ですか?)俺はYesと答えるとニコニコして(僕はステイ-ブです。BBC放送だけど、あなたは?)来た来た来た!!!正直、俺はこんな質問に嫌気がさしていた。
どうせまた馬鹿にされるんだろうなーと、、、まあ、でもこんな退屈な時は友達がいた方がもっと面白い事があるんじゃないかと思い、おちゃらけて経緯を話してやった。ステイーブはそんな俺を面白がってくれてか、肩にかけていたショルダーバッグの中から何枚かの写真を取り出して自慢げに話し始めた。(まあまあまあ、ステイーブ、あっちのベンチに座って話そう!!)のっけからフレンドリーな、、、俺たちは打ち解けるのにそんなには時間はかからなかった。ステイーブはBBC放送のカメラマンで一週間前にアデイス入りしたらしい。奴の話す英語はまったくのイギリス英語で俺には少し分りずらい、、、でも話の内容が内容だけ、写真を見ながらの会話だったのでよくわかった。ステイーブは世界各国を取材していくかたわら、趣味でその各地の娼婦を写真に収めているのだ。すげー!!
その中にボンベイのもあった。(ここはさー、、、俺、そこ行った事あるある!、、、はじめにさー、、、太鼓、ドンドンドンってたたくとサリーを着た女の子がぞろぞろ出てくるとこだろ?、、、そうそうそう!)俺たちは写真を見ながら爆笑!、、、話に花が咲く、、、
お馬鹿な二人、、、
すかさず俺は切り出した。(もちろん、このアデイスにもあるんだよねー?)(おまえ、あたりまえじゃん!!!この近くだから今晩行ってみよう!)(うっそー!ほんと?!)もう俺は顔がグシャグシャになっていたが念のため(でもさー、やばいんじゃない?夜は戒厳令がひかれているし、、、見つかったら殺されるんじゃない? それにこんなクーデターの最中、休みじゃないの?、、、)どんな答えが返って来ようとも俺たちは行くんだろうと思ってはいたがぶつけてみた。ステイ-ブはニコッと笑って(大丈夫!やっていっるから、、、男はこう言う時こそやりたいものだから、、、)そんな訳の分らない回答に俺は納得していた。
(ステイーブ、、、夜出て行く時、正面ゲートからだとパレスの前でヤバイから後ろから出て行こう!俺がつくったいい抜け道があるんだ!!)そう言うと俺はあのジープで壊したフェンスを指差した。(グレート!!!)ステイーブは俺を感心したいでたちで(なんてお前は頭がいいんだ!!!)またも訳の分らない回答に興奮して俺たちは握手をしてハグハグ!、、、お馬鹿な二人、、、ニヤニヤ、日が暮れるのを待っていた。。。

コメント一覧

コメント投稿

投稿フォーム
名前
Eメール
URL
コメント
削除キー